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    登場!ひみつきちマスター・ギリー

    ギリギリギリ! ギリーギリー!




    ※前回のお話が一部不適切なものに差し替えられていました。 謹んでお詫び申し上げます。
     それでは、お話の続きをお楽しみください。



    「ルールの説明をしよう!」
    唐突に現れたこの男の名前はギリー。
    本名、ノムラ ギリオ、バレンタインはいつも義理チョコ、受験も試験もいつもギリギリ。 セーフかアウトかはご想像にお任せします。
    そんなギリギリ人生、カウボーイ姿のギリーは群れになっているマグマ団、アクア団の間を抜けてサファイアたちの前までやってくると、突如としてバタンと倒れた。
    「だ、大丈夫か、あんた!?」
    「ふっ、いいぜいいぜ……このギリギリー……」
    ギリー、エントツ山から発生する火山灰にやられました。 療養してください、シダケ辺りで。
    酸素マスク片手に立ち上がると、ギリーはフラッグを片手に公式のあのポーズをしてみせます。 とったどー。

    「ルールの説明をする!」
    ギリーは言い直した。 恥ずかしさもギリギリだ。
    「このホウエンを舞台にひみつきちを作り、その出来栄えで勝負を競い合ってもらう!
     審査のポイントは、
     1、見つかりにくさ
     2、芸術性
     3、ひみつきち内で行われるポケモンバトル
     の3点だ!!
     1チーム何個でもひみつきちを作って構わないが、1人につき1か所までしか作れない。
     チームで1番高い得点をとったものが代表となり、総合得点が最も高かったチームが優勝だ!」
    「それって、個人戦とほぼ変わらんのとちゃう……?」
    「ぶっちゃけると、そうだ。」
    「僕たちも参加していいですかー?」
    はーい、と、オメガ君が手を上げて質問します。
    「……オメガ君?」
    はい、オメガ君です。 いつもオダマキ研究所のお手伝いをしてくれる、年齢12歳キナギタウン出身のA型、好きな食べ物はふろふき大根のオメガ君です。
    後ろにはアルファちゃんもいます。
    一瞬ポッポが豆鉄砲を喰らったような顔をしたサファイアは、すぐ原因に思い当たり、それを探るべくモンスターボールからラグラージの『カナ』を呼び出しました。
    頭のヒレをピクピクと動かした後、カナはバンッ!と、水しぶきをあげて飛び上がりました。
    岩陰に隠れていた女の子を見つけると、首根っこをつかまえてはい、と、サファイアの方へと突き出します。
    そうです、私、セレナちゃんです。


    「やっぱあんたか、セレナ!」
    「そう言うと、元チャンピオンことサファイアは鍛え上げられたポケモンたちを使い、か弱き乙女をめちゃくちゃにするのであった……
     あぁ、なんと残酷な……」
    「えぇっ! そうなんですか、サファイア先輩!?」
    「んなわけあるかッ! オメガも真に受けんなや!」
    「ぐおっ、ぐぉっ!」
    「言い訳は見苦しいぞ、元チャンピオン。」
    「そうだぞ! 元チャンピオン!」
    マツブサとアオギリまでサファイアをからかうのに参加してしまい、現場は予想以上のカオスに見舞われています。
    ひとまず1番やっかいそうなところをなんとかするため、サファイアはカナにセレナを解放させて、オメガ君とアルファちゃんに事情を説明しました。
    かくかくしかじか。 とりあえず変態疑惑は晴らすことができましたが、サファイアもなんでマグマ団とアクア団のひみつきち競争に巻き込まれたのかは理解できません。
    説明を求めると、マツブサとアオギリは顔を見合わせ、一瞬暗い顔をしてからサファイアたちへと説明する。

    「今から10年ほど前のことだ。
     我らマグマ団が使っていたアジトが、グラードンの関わる夫婦喧嘩に巻き込まれ崩壊した。」
    「あぁ、あったなぁ……そんなこと。」
    ホウエンを司る神の1匹、グラードンは12年前の事件の後、ボールに閉じ込めておくのもかわいそうということで、普段はエントツ山の辺りに放し飼いにされています。 ていうか、今も後ろでボリボリと背中をかく音が聞こえてます。
    グラードンはどういうわけか、トレーナーのルビーではなくシダケタウンに住む女性を気に入っているようで、彼女が実家に帰ってくるたび、里へ下りてきては熱波と迷惑をまき散らしていました。
    そのたびに沈静化に呼ばれるので、サファイアのやっている何でも屋は閑古鳥が鳴かなくなったのですが。
    「ただの洞窟やったからなぁ、あそこ……」
    「そのために、毎年マグマ団で行っていた新年会を、アクア団と合同で行うことになったのだ。」
    「まあ、酒は大勢で飲んだ方がうめえしな!
     なんだけどよ、サファイア。 おめえさんも知ってるだろ? 今年の春の事件……」
    無意識に忘れようとしていたことを思い出し、サファイアの顔が暗くなります。
    今年の春。 カイオーガが2000年(自称)のポケ生の中で初の花粉症にかかりました。
    そのせいで海は大荒れ。 ホウエンの人たちは島国であるにも関わらず、1週間ほどお魚を食べられない日が続きました。
    「あの一件で、アクア団のアジトも波にさらわれて使い物にならなくなっちまってよ……」
    それは、なんというか、ごめんなさい。
    直接自分のことじゃないけどなんとなくサファイアは謝ります。 一応トレーナーだし。
    「そこで、年末の打ち合わせの結果、レクリエーションも兼ねて新しいアジト【飲み屋】の場所を探すことになったというわけだ。」
    「そして! 新しいアジトを足掛かりに、再びアクア団の名をホウエン中に知らしめるというわけよ!!」
    「ッ!?」
    「おっと、いけねぇ……」
    豪快に口を滑らせたアオギリに、主人公勢は騒然となりました。
    なぜチーム戦になったのか。 1位になったひみつきちは、そのまま所属するチーム……マグマ団かアクア団のアジトになるという寸法です。
    「ホウエンを乗っ取るつもりか! そんなことさせないぞ!!」
    さすがの正義感でオメガ君が叫びます。 言い返すタイミングを失ったサファイアは後ろで「そーだそーだ」とヤジを飛ばしました。
    「クックックッ……子供ごときが笑わせてくれる。」
    「フハハハハ! 受けて立ってやろうじゃねぇか!!」
    マツブサとアオギリもノリノリです。 含み笑いじゃなくて音に出してクックックッとか言っちゃってるし。
    ギリーが酸素マスクを外して立ち上がりました。
    噴火口ギリギリにいたものだから、マグマ団が慌てて広い地面の方に引き戻します。
    「では……んへっ、では!
     この勝負はチームマグマ団、チームアクア団、チーム主人公の三つどもえ戦とする!
     なお、ひみつきち内で行われるポケモンバトルの審判はジャッジが行う!」
    「審判がジャッジ……?」
    「そう、僕こそがホウエン地方で話しかけたい男ナンバーワン、だのに、二次創作じゃ存在をなかったことにされる、廃人の恋人ジャッジなのさ。」
    ギリーの影からエリートトレーナー風の男が現れると、オメガ君をはじめ、一部のトレーナーたちから「あぁ~」という声があがりました。
    サファイアも思い出しました。 そういえば最近、ミツル君の話にそんな人物が出てきたような。
    ちなみに話しかけたい人物女性部門ナンバーワンはポケモンセンターのお姉さんです。
    「ジャッジのことなら、この僕に任せてくれたまえ。」
    成長したな、孫よ。 草葉の陰で初代ジャッジのおじいさんも見守っています。
    ギリーがメガホンを握りなおしました。
    いよいよ、ひみつきち合戦三つどもえ戦がスタートします。
    「ただいまより、チームマグマ団VSチームアクア団VSチーム主人公による、ひみつきち対決を始め……」



    ―ちょっと待ったあぁ!!―

    小石さえも跳ね上がるビリビリとした叫び声に、誰もが振り向きました。
    心臓のリズムさえも変えてしまうような、低い、低い重低音。
    エントツ山の火口の方からです。 1番最後に振り返ったギリーが、聞いたことのないような悲鳴をあげて腰を抜かします。
    ガツリ、と、重い音をあげて岩肌に鋭い爪が食い込みました。
    「グ、グググッ、グラードン!?」
    ―世界の行く末を占う儀式を、人間だけで行おうとは笑止千万!
     この戦い、我らも参加させてもらおうか。―
    「我……『ら』?」
    サファイアが聞き返すと、どこか遠くで『かみなり』の音が聞こえました。
    上空では大気圏に住んでいるはずのレックウザがうろうろしています。
    ―……レックウザだけだと思わぬことだ。 既に我らの同志が時空を超えて続々と集結しておる。―
    まさかの地方超え!? サファイアじゃなくてもその場にいた人間たちはツッコミました。
    間違いのないように書いておきますが、この対決はひみつきち対決です。 大事なことだから2回言いますが、ひみつきち対決です。
    「ま、まあ、ギリギリだが来てしまったものは仕方ない。
     では、改めて、チームマグマ団VSチームアクア団VSチーム主人公VSチーム伝説のポケモンの、ひみつきち対決を……」
    「ちょっと待ったーッ!!」
    またかよ!? 恐らく全員がそう思いながら振り向きます。
    もう何が来ても驚かないぞ。 そう覚悟して振り返ったマグマ団とアクア団でしたが、空から降り立ったその人物を見た途端、エントツ山はひっくり返りました。
    蘇るロケット団の悪夢。 伝説のレジェンド。 初代から続く悪の組織キラー。
    1度でもポケモンを手にしたことのある者なら、その名前を知らない者はおりません。
    「こんな面白そうな祭り、まさかオレ抜きで始める訳じゃねーよな?」
    「げぇっ、レッド!?」
    「……と、歴代主人公アンドライバルチームでーす。」
    屈強なアクア団の男たちの間から、ひょっこりとゴールドが顔をのぞかせました。
    レッドのライバル、グリーンとブルー。 ジョウト地方の申し子、クリスとシルバー。 他の面々も各々、悪の組織の間から姿を現してきます。
    いつまたあの悪夢が繰り広げられるのかと、元・悪の組織の人たちは気が気ではありません。
    自分たちで勝手にチーム名までつけた『チーム歴代主人公アンドライバル』はメンバーの一覧表をギリーに渡すと、ビビりまくっているマグマ団とアクア団を一瞥しました。 もうそれだけで何人か気絶しています。 
    早くなんとかして! 視線の集まったギリーは汗の浮いた手でメガホンを握り直しました。
    「そ、そ、それでは! チームマグマ団VSチームアクア団VSチーム主人公VSチーム伝説のポケモンVSチーム歴代主人公アンドライバルの……」
    「ちょっとぉ!」
    「いつも主人公しか活躍しなくて不公平じゃないか!」
    「ポケモンバトルじゃ勝ち目はないが、ひみつきちじゃったらもしかしたらということもあるし……」
    「ここは、我々モブも参加させてもらう!」
    「くがっ、くがっ!」
    「あのー……
     ポケモンたちが『ニンゲンたちだけズルい、ポケモンにも参加する権利があるはずだ!』って……」
    「きしゃー!」
    もー、どーにでもして。 サファイアは空を見上げて諦めた顔をしていました。
    散々人やらポケモンやら押しかけたせいで、エントツ山は容量ギリギリです。
    参加人数をカウントしていたジャッジが腱鞘炎でぶっ倒れました。 参加者たちを映すためのカメラも、もはやメモリが足りません。
    「ギリーさん、私たちも参加させてくださいな!」
    「ギリー! ボクもボクも。」
    「ふん、若造などワシのひみつきちでなぎ倒してくれる!」
    「もえ~ん」
    「ギリー!」
    「ギリー様!」
    「ギリっちー」
    ぷつん。 頭の中がギリギリだったギリーの中で何かが切れました。
    おもむろに手にしたメガホンの側面に手をやると、音量を最大にします。
    音を拾い過ぎてきぃんとハウリングしたメガホンに、近くにいる人間やポケモンたちが耳を塞ぎました。


    『……よぉし、わかった! お前らまとめて全員参加だ!!
     スマブラもバンブラも発売されたことだし、ホウエンあげての大乱闘といこうじゃないか!!
     チームマグマ団VSチームアクア団VSチーム主人公VSチーム伝説のポケモンVSチーム歴代主人公アンドライバルVSチームモブ(人間)VSチームモブポケモン、その他もろもろッ!
     ギリギリの野郎ども、血で血を洗うひみつきち対決、覚悟はいいかーッ!!?』

    ウオオォォォォッ!!
    歓喜と雄叫びでホウエン地方の屋根、エントツ山は震え上がりました。
    かくして、世界の存亡をかけた壮絶なひみつきち対決、大乱闘ひみつきちブラザーズは幕を上げたのです。
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