「あおぉおおおーん!?」
火曜日の早朝、ある意味いつも通りのサファイアの叫びでルビーは起こされた。
一晩かけていいかんじに暖まった布団を跳ね上げると、サファイアの部屋がある2階への階段を駆け上がる。
「うるさいっ! 今、何時だと思ってんだい!」
「ピピーッ、ヨジ、サンジェウゴフンデス、ヨジ、サンジュウゴフンデス。」
ルビーの問いかけに答えたのは、サファイアの口ではなく、サファイアの尻であった。
「カジダ、ジシンダ、キュウキュウシャー!
カミナリオヤジィ、イヤーン、チカンヨー!」
「ル、ルビー…… たすけ……助けて……」
昨日片付けたばかりの部屋の隅で、サファイアは尻を天井に突き出した体勢で壁とベッドの隙間に刺さっていた。
突き出した尻の間から、けたたましい音が鳴っている。
「タスケテー、ケテケテー! ヘルプミー!」
「一体、今度はなんなんだい……」
やかましさに顔をしかめながら、ルビーはベッドに突き刺さっているサファイアを引っぱり出す。
ついでにうるさいのもなんとかしてしまいたかったが、「ピピー」という電子音が鳴った辺りでルビーは諦めた。
顔が抜けたサファイアはしかめっ面のルビーを見ると涙目になりながら床の上に正座した。
その間にも尻からは、やかましく音が鳴り続けている。 なかなかにシュールな図である。
「エマージェンシー、エマージェンシー、スクランブルシュツドウダー!」
「サファイア! 何が起きたんだい、説明しな!」
「はおっ!? ゆ、昨夜コトコトカンパニーで買った『いつでもお助け!マルチ防犯ブザー』の調子を見とったら……」
「あんたまだ、あの会社と取り引きしてたのかい!?」
「キャー、アクノカイジンニサラワレルー!」
退屈な日常にちょっとしたスパイスを。 有限会社コトコト(略)の社長は3軒隣のお兄さんです。
3か月に1回名前の変わるこの会社はサファイアが現役の頃から、ちょくちょく変な商品やらいらないものやらを売りつけてきます。
「はひゅっ!? そ、そう言わんといて……そのために商品の内容確かめとったんやから……
ほんで、一通り見終わって、さぁ寝よかって椅子引いたら机の上から『いつでもお助け!マルチ防犯ブザー』が落っこちてもうて……」
「ダイカイジュウダー!」
「音が鳴り出したんで慌てて拾おうとしたら、自分で座ってる椅子のキャスター蹴っ飛ばしてしもて……」
「アイドルガアラワレタワー!」
「……尻に突き刺さったってわけかい。
よくもまぁ、服の上から抜けなくなるほど深く刺さるもんだね……」
おひょうっ、と、サファイアは奇声をあげた。
ガンガン音を鳴らす警報器の音波が尻から伝わってくるのだと、のちに彼は語る。 変な趣味に目覚めなければいいが。
「うひっ? ……どないしょー、ルビー?
このままやとご近所中の正義の味方がうちに集まってまう!」
「……もう遅い。」
他の人間よりもよく利くルビーの耳は、尻の騒音にまぎれて近づいてくるサイレンの音をとらえていた。
既に家の周りに人だかりも出来ている。
ため息1つついて、ルビーは覚悟した。
当分、ご近所中の噂になることはまぬがれないだろう。
PR