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    密着!ポケモンミステリー

    みんなのアイドル☆
    クウ様登場です。




    「ほな! こないだ努力値狩りに行ったときにダルマさんになってしもたカナからとった灰、ガラスグッズと交換してくるさかい、クウ、ラン、留守番よろしく頼むわ!」
    「ぴょぴー」
    「なーんす!」
    そう言って、サファイアは元気に113番道路に出かけていきました。
    ばたんと扉が閉まって、クウとラン以外いなくなった家に普段はかからない鍵がかけられます。
    その音を聞くなり、ランはオダマキ博士が戸棚の上に隠した森のヨウカンを探しに行きました。
    クウは、玄関口にある下駄箱の上によじ登ると、飾ってある花を半分食べてしまいました。
    鋭いクチバシでつつくものだから花瓶の口も割れて、玄関先はなかなかに前衛的なアーティスティックです。

    このクウですが、ある筋ではポケモン界最大のミステリーとも呼ばれています。
    なぜかと言うと、トレーナーやパーティのポケモン同士はおろか、同じ種族であるはずのチルットやチルタリスとすら言葉が通じません。
    主人であるサファイアにだけはわかるらしいのですが、その行動は我々人類には理解不能なものばかり。
    のっけからやらかしたこのきまぐれなチルタリス、ニックネーム『クウ』に今日は密着取材したいと思います。



    クウはサファイアが好きです。 食べちゃいたいくらい好きです。
    でも、6年ほど前に少し食べてみたら思いのほか不味かったので、それからは1億年と2千年前から愛してるそうです。
    そんなサファイアに置いて行かれてさぞかし不機嫌かと思いきや、留守番という仕事を任されてクウはご機嫌そうでした。
    芸術的になった花瓶を眺めて満足そうな「むふー」という鼻息をつくと、下駄箱の中にあるサファイアの靴に頭を突き刺しました。
    これでサファイアの臭い嗅ぎ放題です。 だけど、前が見えないので靴は床に落ちました。
    面倒くさくなったので靴を後ろ足で蹴っ飛ばすと『そらをとぶ』の技を使って玄関の段差を乗り越えます。
    風圧で花瓶が落っこちたけど気にしません。 ついでにソーナンスのランが台所で何かやらかした音が聞こえたけど気にしません。
    だって女の子だもん。
    乙女心に心配の二文字は不要なのです。
    椅子と積み重ねた踏み台ごとひっくり返っているランを尻目に、クウは2階のサファイアの部屋へと向かいます。

    クウは綺麗好きです。 だから掃除をします。
    だって妻ですもの。 なんで妻かというと、サファイアの初ちゅーをクウがもらったからです。 実際は顔面に頭突きされたとのサファイアの証言ですが。
    畳とカーペットの毛を半分ほどむしり取ったところで、クウは飽きました。
    窓の外にはすがすがしい青空が広がっています。
    空を自由に飛びたいな。 そう思ってこの間テッカニンのチャチャに相乗りしようとしたら、「み゛ーッ!!?」とものすごい音で抵抗されたあげく、全力で逃げられました。
    残念、食べ損ねた。 そんな甘酸っぱい思い出に浸りながらポカポカベッドの上で、ちょっとお昼寝します。
    階段の下では、誰かとランの話し声が聞こえます。
    「うわっ、何だこのポケモン!? 逃げられねえ!」
    「なんなーんす」
    どうやらお客様のようです。 まあ、ランももう子供じゃないし、任せておけばいいでしょう。
    気分がよくなってきたクウはベッドの上で歌を口ずさみだしました。
    お元気でしょうか? ポケモンきまぐれ歌紀行、始まったばかりですが、そろそろ終わりのお時間です。
    今日もたくさんの応援メッセージありがとう。
    美人で気立てが良くてなんでも出来ちゃうクウさんの贈るナンバーは、『ほろびのうた』です。


    両手いっぱいに荷物を抱えて……いるわけでもないですが、113番道路での用事を終えて帰ってきたサファイアは、玄関先で自分の父親、オダマキ博士とばったり遭遇しました。
    「おう、雄貴。 仕事はどげんしたとね?」
    「一応、仕事中や…… 最悪、ホウエンの危機かもしれん。」
    ホウエンの危機を救うことと灰から出来たガラスの置き物を買うことが、どうつながるのかよく分かりませんが、サファイアにもよく分かりませんでした。
    ひみつきちが世界を救うってどーなの。 ソーナノ? ソーナンス!
    そう思いながら、サファイアは玄関の鍵を開けましたが、どうも家の中の様子が変です。
    玄関は下駄箱の中身がひっくり返され、花瓶が割られ、中に活けられていた花が床に引きちぎられたような状態で散乱していました。
    元気なランとやかましいクウを置いてきたのだから、さぞかしにぎやかだろうと思っていた自宅は不気味なほどに静まり返り、部屋に入るとまるで荒らされたように部屋中のものが無残に散らばっています。
    「雄貴!」
    台所を調べていたオダマキ博士が、大きな声でサファイアのことを呼びました。
    サファイアがそちらへと向かうと、台所の隅でひっくり返っているアクア団が1人。 なぜか回覧板を抱え、森のヨウカンに手を伸ばしたランと一緒にぐったりしています。
    「『かげふみ』、『ほろびのうた』コンボ……ぐふっ……」
    それが、アクア団の最後の言葉となりました。
    訳がわからず、顔を見合わせるサファイアとオダマキ博士。
    後に病院で回復したアクア団に話を伺ったところ、彼はひみつきち勝負をするにあたり、ライバルの作戦を偵察するためにオダマキ家に忍び込んだとのこと。
    回覧板はすんごい作戦が書かれていると思ってこっそり持ち帰ろうとしたそうです。
    実際のところ、その回覧板は町内会長の字がヘタ……達筆過ぎて、近所では読めない回覧板として有名だったらしいのですが。
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