テレビでは、もうすぐ訪れるシシコ座流星群の話題を話していました。
もうすぐ9時、良い子は寝る時間です。
両親が見ているテレビの音を聞きながら、アルファちゃんは自分の部屋でいつ降ってくるか分からない流れ星に願い事をしていました。
「あーあ、キレイになりたいなぁ。」
それは、女の子なら1度は考えたことがあるような、ささやかで可愛らしいお願いでした。
「6頭身で足の長いコンテストスターになって、見ている人たちを圧倒させたいなー。」
2.5頭身のデフォルメキャラにはなかなか難しいお願いをしていました。 そんなこと願われたら、流れ星も困惑してお空に帰ってしまいます。
時計の長針がてっぺんへ戻ろうと身じろぎしたとき、アルファちゃんは悩ましげにため息をつきました。
そろそろベッドに入る時間です。
さわやかな夜風が吹き込んでいた窓を閉め、明るすぎる朝の日差しに眠りを妨げられぬようハート模様のカーテンを閉めたとき、アルファちゃんの頭の中に、声が響いてきました。
―力が、欲しいか……?―
「別にいらない。」
アルファちゃんは即答でした。
パジャマのすそを握りしめてベッドに入ります。 昼間ママが干してくれたお布団はふかふかです。
―ちょっ、ちょっと、待てっ! 本当にいらないのか!? ポケモンがメガシンカするくらい強くなれるのだぞ!?―
「えー、だって~、人間がメガシンカしたところでバトルにもコンテストにも使えないでしょ。
あたしもう寝るから静かにしてね。 おやすみなさーい。」
―ちょー、ちょー、ちょー! せっかく俺様が貴様を選ばれた人間にしてやろうというのに、何、なんなのだ、その態度!?―
―え、え? というか、普通驚かないか? 頭の中に直接話しかけているのだぞ!―
「頭に話しかけても、6頭身にはなれないしねぇ~。」
―え? ロクトウシン? え?―
頭の中の声はアルファちゃんの持論にすっかり混乱していました。
そんなことお構いなしに寝る前の遊び相手が出来てしまったアルファちゃんは、頭の中の声を相手に自分の話を一方的に展開します。
「あたしの夢はね~、すらっとした手足の長いキレイな女の人になってー、その美貌で世界中の人をトリコにしてー、ポケモンコンテストライブでスターになってー……」
順番がおかしいだろう、と、頭の中の声の人は頭の中で突っ込みましたが口に出すほどのスキはありませんでした。
「ポケモンリーグでも優勝してー、あっ、それでね、ダイゴさんにプロポーズしてもらうの!
すごいでしょ! ダイゴさん、お金持ちでビケイでしかも独身なんだよ!」
―あ、あぁ…… あの、よく石を探してウロウロしている人間か……―
「でもオメガ君もステキなんだよねー。 優しいしかわいいし、それにね、ポケモンに優しいんだよ、オメガ君!」
―そ、そうか……?―
以前見たオメガ君のポケモンバトルの様子を思い出し、頭の中の声はひどく悩みました。
いたずらごころイルミーゼの『でんじは』からの『いばる』『じこあんじ』『バトンタッチ』、その後交代したアーマルドの『いわなだれ』のコンボは鬼気迫るものがありました。
どうやら彼の『優しい』は、方向が決まっているようです。
あんま関わらんようにしとこ、と、頭の中の声がこっそり心の中で決意を固めていると、急に思い出したようにアルファちゃんが「あっ!」と声をあげます。
「ていうか、もしかしてもしかして、こんな声が聞こえるってことは、もしかして世界の危機!?
グラードンとカイオーガの封印が解かれて暴れ出しちゃったり?」
―いやいやいや! もう解かれてるというか、俺様寝てただけだから!―
「それで復活した伝説のポケモン同士が戦って、止めようとしたダイゴさんが死んじゃって……!」
―濡れ衣ッ!? しかもそれポケ○ペの話だろう!?―
「それでね、白いお墓の前で、オメガ君があたしに言ってくれるの。 『俺が、ダイゴさんの分までアルファちゃんのこと、幸せにするよ』って……それで、それでね……」
―んだーッ!! お前ッ、少しはこっちの話も聞かんかー!!―
スピーカー並みの音量を頭の中に響かされたアルファちゃんは、「きゃっ」と悲鳴をあげて思わず耳を塞ぎました。
おかげですっかり目が覚めてしまいました。 夜にやってきていい迷惑です。
むくれるアルファちゃんにコホン、と、ひとつ咳払いをすると、頭の中の声は切り出し直しました。
―で、結局お前の願いはなんなのだ。 コトによるが、近所をウロウロするのにも飽きたし、叶えてやらんこともないぞ。―
「じゃあ、あたし6頭身になりたい!」
やっぱりアルファちゃんは即答でした。 夢見るオトメは迷いがありません。
―だから、なんなのだ? そのロクトウシンというのは……?―
「うーんとね、いきなり背がシュッと伸びて、手足が長くなってポリゴンも細かくなる……」
―あぁ、重要イベントのアレか。―
「そう、アレ!」
アレの一言で済まされました。
ハタから聞いたらさっぱりですが、頭の中の声にはアレが理解できたらしく「ふむ」とうなり声をあげると再びアルファちゃんに話しかけます。
―そういうことだったら、叶えてやれんこともないな。―
「ホント!?」
―要するに重要イベントを起こせばいいのだろう。 俺様のヒレにかかればそれくらい、たやすいことだ。―
自慢げに話す頭の中の声に、眠そうにしていたアルファちゃんの顔がパッと輝きました。
ついに憧れの6頭身です。
はしゃいでいると、リビングにいたお母さんがアルファちゃんに早く寝なさいと厳しい声をかけます。
慌てて口をふさいだアルファちゃんに、再び頭の中の声が話しかけてきました。
―では、明日の昼、ミナモシティに行くのだ。 そこでお前を6頭身にしてやる。―
そう言うと、声は「ではな。」と言い残してアルファちゃんの頭の中から消えていきました。
その晩、ドキドキしながらもアルファちゃんは眠りにつきました。
次の日、外はアルファちゃんの心のようにすっきりした青空……ではなく、どんよりとした重い雲がかかっていました。
『……レポーターのマリです! 今、ミナモシティの現場までやってきています!
目の前も見えないほどのはげしーい雨です!
突如出現したカイオーガによって、ミナモシティは、今、特別警戒警報が発令されています!
みなさん、くれぐれも不要不急の外出は避け、大雨に備えてください!! 繰り返します……』
―フハハハハ!!
どうだ、これだけの大イベントが起これば6頭身にもなるだろう!!―
翌日、めざめのほこらなんて完全無視して直接ミナモシティに乗り込んできたカイオーガに、街は大パニックを起こしていました。
デパートのシャッターは閉められ、美術館は布で覆われ、雨漏りを修理していた宿屋ミナモのモナミのご主人が屋根から落っこちて手首を捻挫しました。
豪雨と暴風でいつもは賑やかな会場もコンテストどころではありません。
みんな揺れる照明を見つめながらガタガタ震えていました。
―さあ、出てくるがいい! 新たなる主人公よ!! 今こそ6頭身になるときなのだ!!―
ノリノリのカイオーガの前に、1人の人間が現れました。
アルファちゃんでしょうか? すらりと長い手足で6頭身になったその人物は、おもむろにモンスターボールを手に取るとカイオーガへと向かってそれを放ちます。
「行けッ、僕らのホウエンを守るんだ! スバきちろう!!」
―んまっ!?―
オメガ君でした。
サファイアのときですら訪れなかったマジモンの危機にマジモードになったオメガ君は6頭身へとメガシンカしてカイオーガに襲い掛かってきます。
予定と違う展開に焦りながら、カイオーガは突っ込んできたオオスバメに『れいとうビーム』を放ちました。
こうかはばつぐんだ!
スバきちろうはきあいのタスキでもちこたえた!
―!?―
「スバきちろう、『がむしゃら』だ!!」
―!!?―
「そして、『でんこうせっか』!!」
「ぎゅらりゅるぅぅぅぅううあああッ!!!?」
……こうして、ひとりの少年の手によってホウエンの平和は守られました。
街は守られましたがコンテストは中止になったため、アルファちゃんの6頭身デビューはかないませんでした。
この事件を後に、カイオーガはこう語ります。
―通信でもないのにタスキ使うなんて、あいつ、チートだろ……―
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